中野整形外科クリニック

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ムチウチで沈没 / ブラヴォー、マッケンジー先生! / 整形外科医が頚部捻挫、そのとき、どうした?

やっちまいました。

BSで放映していた映画を以前録画していたのを、家のフローリング床で寝っころがってみていたんです。

「太陽がいっぱい」でアランドロン扮するトム・リプリーがちょうどヨットの上で殺人を犯すシーンで、居ずまいをただしてフト体勢を変えたさいに首にグキッときて、一瞬のことで別にその後もなんともなかったんですが、こりゃあ、明日の朝ぐらいにやって来るンだろうなあ、と思っていると、、、

思ったとおり、翌朝、首は動かない。

 

左首の付け根に強い痛みがあって、右に回そうとするとビシュッと痛みが走って動かない。

左には、まあ回りますわ。

前に曲げるとなんとなく左首の付け根が張ったように痛い。

後ろに曲げると、首の付け根の一箇所にウッとくるような一点の痛みがある。

腕から手には何の症状もないので、ヘルニアだとか首からの神経がらみの問題はないなあ。

自己診断するに、頚椎の椎間関節の捻挫でしょうか。

 

首の骨どうしをつないでる関節の周りの靭帯とかなんとか、首を支える組織の捻挫が起こって、、、

そこを動かそうとすると痛みがあるのを守ろうとして、その周りの組織が全体に固まってしまった状態を想像します。

痛いから周りが固まる、固まるから、また、動かすと痛い、痛いからもっと固めてしまう。

悪い、堂々巡りが起こって固まってしまったってやつですね。

腰でいう、いわゆるぎっくり腰。

首だからぎっくり首?

頚椎捻挫、ないしムチウチ損傷との診断をくだしました。

 

診断もつけたところで、

梅雨の合間のたまの晴天だったので、自転車でクリニックに。(実は6月の出来事です)

自宅からクリニックまでは片道15km、折りたたみ自転車かロードバイクで走っています。

雨の日は車か電車ですけど。

普段は路面状況と自転車のギアのベストな選択を鷹の目で探りつつ、ガンガン走りこんでいくんですが、

今日は、左右確認をしようとするとジャキーンと痛みが走り、特に右には全く向くことができない。

この運転じゃあ、危ねえやなあ、と、

前に子供用補助席、後ろに子供2人が乗れる補助席(そんなものがあるんだなあ、と感心)、子供を計3人乗せることができるようにしている電動アシスト付きママチャリの後ろを、いつもならズバッと瞬殺で追い抜いているはずのママさん自転車に付き従って粛々と歩道を走行するのでありました。

と、気づいたのですが、

ムチウチって、突っ張って動かないのを表現して、鞭をうたれたかのように、と言っているのかと今まで思っていましたが、首を動かそうとすると鞭を打たれたかのように衝撃が走るコトを指して、むち打ちって表現しているのかも、、、

どうなんデショ?

ドッチでも良い。

 

クリニックに到着して、診療へ。

いやあ、首が痛いんですよねぇ、という患者さんに、

今はわたしのほうがずっと痛いと思いますよ、と心の中で毒づきながら、レントゲン写真を撮ろうとしてズキッ、はい、コッチの足を持ち上げていきますよ、、と力を入れるとグキッ、はい、チクッとしますからね、とエコーのほうを振り向いた際にグシュっと、トホホな想いで午前中を乗り切った。

 

こんなに、一挙一投足で痛みがでてくるなら、もし注射一本で治るものなら、治らなくても軽減するものなら、ブロック注射のひとつもお願いしたくもなるのだろうなあ、と妙に患者さんの心理を納得。

でも、これ、わたしにとっては千載一遇のチャンスなんだよなあ。

実際どんな痛みがどのようにあって、それでどんな変化をするのか、身をもって体現してるんじゃあ、ありませんか。

 

あまつさえ、自分で動いて自分で治せ、と日ごろ他人様を叱責している当の本人が、それがホントのとこ、どういうことなのか、自ら範を示す好機。

あー、天国におわす、R.マッケンジー師匠、これ、わたしにお与えになられた試練なんでしょうか。そうでしょ、そうでしょ。

、、、ということでしっかり動かして自分で治すことを決意しました。

 

 

まずは現状の把握。

理学療法士のサイトーに首の可動域を計測してもらいました。

 

右斜頚あり

伸展20度、屈曲25度

右側屈 7度、左側屈 10度(→自覚的には左に倒しにくい)

右回旋50度、左回旋55度

 

マッケンジー法の首の治療の原則で、横にゆがんだ状況で自分でそれを矯正できないようなら、矢状面方向へ動かすのではなく、まずは側方の運動から試してみる、というのがあって、それに従うなら右側屈か左側屈か。

原則は痛みのある方向へ、が優先。

ということなら左側屈が1st choiceですが、

試しに右側屈をすると、ちょうど限局する痛みがある左側の基部がストレッチされて、心地よい感じはある。

対して、左側屈すると、その痛みの一点が押しつぶされるように、地味に痛くて不快。

倒した首をすぐ元にもどしました。

治療の原則はあくまでも原則なので、実際は試して、よい反応だと判断した方を選びます。

 

選んだのは左側屈。

 

曲げると痛くて、戻すと消える。

それを3回くらいやると、不思議に痛みが少し軽減し、4回目には、さらにもうすこし倒せるようになる。

10回くらい繰り返して、でもやっぱり痛みがあって、不快なのは変わらないのですが、いままで全く動かせられなかった右方向に首を回せるようになった。

右に向くことができるようになるんですよっ!

右に回して痛みがあるのは同じですが、動きが拡大した、という事実が大事。

 

これ、すごく良い反応です。

 

症状や状態が改善していくある特定の運動方向がある、腰痛ではそれが73%、首の痛みでは82%だとのデータがあります。

May S, Rosedale R. An international survey of the prevalence of the McKenzie system classifications and directional preferences in patients with spinal pain. Musculoskelet Sci Pract 2018;39:10-15

そういう運動方向のことをマッケンジー法ではdirectional prephalance(DP:日本語で「好ましい方向」という意味?)と呼びます。

 

 

首を左に倒す運動をつづけて、左へさらに倒せるようになるのは、倒しやすくなるのは、まあ、当然といえば当然。

それと全く関係のない方向への動きが拡大するというのは、DPという概念を知らなくとも、良い反応、、ですよねえ。

 

いくらやっても痛みが消えない。だからこんなの、全然効果ないっス。

患者さんとハナシをしてると、そういう方が少なくないのが歯がゆいのですが、

痛みが消えるのかどうか、というポイントだけを判断基準にすると、こういう小さい変化をとらえることができず、良い変化がでていることに本人は気づかない。

気づかないから、やらない。

すると良い状態へ変わるキッカケもつかめない。

まったくもって、勿体ないことです。

 

昼から晩まで、ちょっとした合間に、1-2回、でも、やる。やりきる。

やっぱり痛みは毎回変わらず、首を倒すと首の根元で痛みが自己主張してます。

でも、DPの先にはバラ色の未来があることを説いたマッケンジー師匠を信じてひたすらやり続ける。

診療が終わり、カルテ整理などを終えた一日の終わりに状態チェック。

サイトーはすでに帰宅していたので角度計測は成りませんでしたが、あれぇ、右に向けますよ。

相変わらず、首を動かすと不快な痛みは残っていますし、左へ倒すときも、首の根っこのところで一点、不快な痛みが刺さってる。

でも右に向けるようになっているし、これなら自転車での安全確認もし放題じゃあ、ありませんか。

かくして、自宅への帰途は、自転車爆走。周囲の安全には留意して、ですけど。

 

夜寝る前にしっかりエクセサイズすると、翌朝が違いますから、しっかり「貯筋」してくださいね、と患者さんには説明しているはずが、ちょっと状態が良くなったもんだから、そのまま気づけば、というか気づかないうちに就寝。

良くなったが故の、早速のサボり癖。

人間、まあ、そんなもんです。

(患者さんの手前、ホンマにそれでエエのんか?そこに、愛はあるんかぁ?アぁ~い~ふるぅ♪)

 

翌朝、

あれ?全く痛くないぞ。

右にも向けるし、首を動かしても痛くない。

左へ倒すと、、、昨日みたいな痛みがないなあ、、、より深く倒すとでてきた。コイツだ。

痛みとの再会。

でも、格段に動けるようになってます!

左の首根っこの一点の痛みは残ってますが、首を自由に回せる。

回旋可動域を確認すると、右へは自由に、昨日とは逆に、左へ回すのが不快。

逆に、といおうか、左回旋の症状は昨日もこうだったのかもしれない。

右回旋の痛みが強すぎて、左への可動域制限にはそんなに気が回ってなかった、というだけかもしれません。

今日はクリニックは休みなので、サイトーに可動域計測してもらえないのが残念。

体感でこれだけよくなっているのは、実際測ってもらう角度はどうなんだろ?

昨日とは痛みの状況が異なっており、再評価でDPを探る。

 

昨日、一番困ったのは、右に全く向けない、ということ。

今朝の悩みは、左に回す/倒すと痛みが不快だということ。それを目安にDPを探ると、シンプルな伸展、後ろに倒すのが良いみたい。

倒すと、最後ぐらいで、例の、左の一点の痛みがジワッとでるのですが、さらにそれを押しつぶすように首を左右に振ると、より気持ちが良いようでも、悪いようでもあり、どっちだ、どっちかといえば良いかな?

今日一日はこれをやりきろう!という決意で、、、、でも気づくと夜。

 

小さなことからコツコツと、が大事ですよ、と患者さんには説明していている奴がこのテイタラク、

だって、日常生活動作で痛みがなくて、困る場面がなかったんだもの。

つい、いろんなことにかまけて、一日、全くエクセサイズをすることなく、気づくと夜になっておりました。

 

状態をチェック

左回旋時に、首の根元、左の一点の痛みが動きを妨害する。右にはそれがない

前屈で何となく左首根っこが張っている感じ

後屈では一点を何重かコーティングしたような大きさの痛みが左基部に

左側屈でそれと同様の痛み、右側屈ではそこが引っ張られるような。

エクセサイズとして後屈すると、なんとなくジャリジャリする音が奥のほうで鳴り、最終域で首を振るとさらにジャリ音あり。

特に左に振ったときにコーティングした一点をすりつぶすような痛みがあるが、繰り返しているとそれがだんだん和らぐ、、が痛みは消えはしない。

寝る直前まで、しっかりエクセサイズをやりきって、就寝に。

 

朝起床、

なんとなく左頸部になんかおる、という程度。

安全確認で必要な頚部左右回旋も、グルグル首を回してしごく快調。

自転車爆走でクリニックに。安全確認はしっかり。

 

サイトーに依頼して首の可動域計測

伸展58度、屈曲50度

右側屈35度、左側屈40度

右回旋70度、左回旋70度

 

トウゼン予想はついていたことですが、すさまじい改善具合です。

ありがとう、マッケンジー先生。

がんばったな、おれ。

そして、左の頚部基部に残った痛みには、後屈で対処をつづけま、、、、、せんでした。

繰り返しになりますが、だって、生活に困ること、ないんだもん。

この、残っている痛みは、恐らく、頚椎の椎間関節の捻挫で生じた、靭帯なのか、周囲の筋肉なのかの、もともとの捻挫した組織の外傷としての痛みであって、部品の故障は運動したからって、治るものでもないですしね。

患者さんには、部品の故障は2週間半から3週間目ぐらいから、修復が始まります、それまでは、1週間しても、2週間待とうが、痛みはなーんも変わらんですからね、と説明しています。それを過ぎて修復が始まると、一週間ごとくらいのペースで段々と痛みが出にくくなるでしょうと。

傷んだ組織が修復されないと、いくら運動をがんばったところで、痛みがでるのは消失しない、するはずがない。

でも、現状、困っていない。

痛みがあっても、動きは悪くないので困らないんです。

じゃあ、まあ、いいかなって、幕引きも、これもまあ、ひとつの、あれ、ですよ。

あれって、なんだ?

 

 

痛みがでて4日目、後屈の際の痛みがホントに違和感ぐらいになり、左回旋で頸の根元にまだ痛みあり。右回旋では右の頸の根元に違和感。今まで同様、生活には困らない。

 

6日目の晩、自転車爆走でクリニックから帰る際に、安全確認で右に深く振り向いた際の痛みが強くなっているのに気づきました。

翌朝(7日目)あれ、ヤッパリ右回旋を深くすると痛みが、、これまでより強くなってないかな?

サイトーに頚部可動域を計測してもらう

前屈 50、後屈 55

右側屈 30度、左側屈 25度

右回旋60度、左回旋 60度

おお、やっぱり、制限が強くなっている。

 

左の痛みは、外傷性のものだからすぐには治らないとしても、右の同様の場所の痛みと首の動きの制限が強くなっているのは、なぜか?

動作での左側の痛みがあるものだから、無意識のうちに首の特定の動きをしないようにしてしまっていて、頸の関節周りをこわばらせてしまっているのではないのかな?

で、あれば、しっかり「自分で動かす」ことでしょう。

ああ、これが、マッケンジー先生の言われる、自己管理、ということだな。

いろんな気付きを、ありがとうございます、師匠。

 

、、、ここで手記がとぎれております。とうとう力つきたのでしょうか。

 

それからのわたしがどうなったのかと申しますと、、

生活動作では、ヤッパリ困ることが皆無なので、exはサボり気味、というか、時々忘れたころに、いかん、いかんとチョコチョコやってました。

再発防止のためにエクセサイズはしっかり、ということを患者さんに説明している立場からすると、「しっかりやらなかったから、再発しました」、というような展開があると、

説得力もでたであろうに、、

なぁ~んともなく、うまいこといってしまいました。

当初の目論見どおり、受傷より3週ぐらいから、損傷した組織が修復が始まったのか痛みの出方も軽くなって、それから2-3週ぐらいで全く痛みもなくなり、、、

今では患者さんに、ダメッすよ、さぼっちゃぁ、しっかり再発予防まで目指さないと、と自分のことはタナにあげて、しれっと説明していたりします。

いや、でも、以前より、トーンが落ちたかなあ。