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マッケンジー先生自叙伝 Against the tide:19

ひょんなことから開業の道へ進んだマッケンジー師匠。

まだ右も左も分からん研修生の分際で開業なんて大それた選択を、、それもまだ理学療法の黎明期であったが故ということもあったのでしょうか。

お金持ちから出資を得たのも、まあ、運も実力のうちですか。

運も実力のうち、、私が大学時代、解剖学の教授は進級がかかった大事な試験に、学生にくじ引きを引かせて口頭試問形式で試験をされていまして、その際にそう言っておられたのを思い出しました。ヒキがあかんかったらホンマに落とすからな、それもまあ、運も実力のうちやからな、なんて、とんでもない奴っちゃ、と当時は思っていましたが、実際、社会にでるとそういうことって、ありますよね。結局、解剖学のその教授には全員合格にしていただけましたが。

では、師匠、どうぞ、、

 

アデリーン・オコナー女史の治療室には、20世紀のはじめによう使われとったような古い電気治療の器械が並んでました。私の周りの誰もがこんな器械の使い方なんか知らんかったですし、ちょっとしたおかしな骨董品というたような感じやったんです。眼のくらむような光のシャワーを当てると、痛みもあるんですが筋がギュッと収縮しよる、一方で肌と筋肉とに吸引をかけるようにすると数日間、肌が赤くなって、打ち身のような痕が残るんです。

誘導刺激法と呼ばれているものやと、後になって本で読みました。私はこれら器械がホンマに効果があるんかよく分からんかったですし、理学療法科の授業にもでてきませんでしたんで、使うてどないかしようなどとは思わんかったんです。どんなモンでもあなたに代わって売りマッセ、という競売会社のダンバースローンズに依頼したんですが、オコナー女史の電気治療器はさっぱり買い手がつかんかったんです。今の時代なら、そら珍しいモンですさかいに、高値で取引されるんかもしれませんなあ。

開院して1週間で10人の患者さんを診ました。翌週には2倍に増えて、1日に40人の患者さんが来てくれはるようになりまして、私の手はほとんど痙攣しているようになってましたわ。1年くらい経つと、ケルビンチャンバーの同じ通りのそう遠くない所に別のクリニックが売りに出たんです。そこは結構な広さがあって、患者さんもようさん入ってもらえそうでしたんで、私はぜひ購入しようと思いましたし、それだけの財力もありましたんや。仕事はホンマに順調よういってました。当時、理学療法の需要は大きかったんですが、街には7件しか開業していたトコロがなかったんです。私の恩師、キース・リットンや、他は女性の方ばかりで、それも多くはパートタイムで診療したはりました。私は地区の医師を訪ねて、患者さんを紹介してもらえるようにお願いしてまわりました。当時はそうすることが礼儀にかなったことやと思われてたんです、、、それがホンマのマーケティングでしょうな。どの医師もこころよく迎えてくれましたし、特に総合内科医の先生方からはよく患者さんを紹介していただけるようになったんで、すぐに1日10~11時間も働かなあかんようになりましてん。

ケルビンチャンバーは16番テラスにありウェリントンの繁華街のど真ん中でした。国会や政府関連の事務所が近くにあったおかげで、市の役人さんやビジネスマンが患者さんのなかには多かったですかな、治療費の未払いなんかほとんどなかったですわ。政府高官の偉いさんもよう来てくれはりました。大臣、総務大臣、シドニー・ホーランド閣下、キース・ホルヨーク閣下、ジャック・マーシャル閣下、ロバート・ムルドーン閣下、デビッド・ラング閣下なんかも来てくれはったんです。

オコナー女史のクリニックを引き継いでからの、すぐあとぐらいでしたか、総理大臣のシドニー・ホーランド閣下の屋敷へ呼ばれました。腰痛がひどいいんや、とのことでしたわ。

シドニー閣下はベットに寝られていて、かなりつらそうにしたはりました。温熱治療やマッサージを勧めたんですが、腹ばいになってもらわんと出来へんモンばっかりで、まあ無理ですわな。立ってもらおうとしてもダメで、一度は立ち上がりかけはったんですが、激痛ですぐに床に倒れこんでしまわはった。私はここまで痛みの強い患者さんを診たことがなかったんです。どないしたらエエんやろう。麻痺が進んでたりせんやろか。翌朝の新聞の見出しが眼に浮かんだ。「シドニー・ホーランド氏は無能で未熟なセラピストのために再起不能!!」ありがたいことに、数日経つと段々良くなってきはったので私も責任を取らされんでようなったんです。

こんな名士たちのなかでも、一番愉快やったのはキース・ホルヨーク総理ですわ。彼にはユーモアのセンスがありました。2日に1回程度、3,40分を治療としてキース卿に接してたんですが、そのあいだじゅう、彼の長い政治家経験からの汲めども尽きんよもやま噺でずっと楽しませてもろてたんです。良きアドバイスなんかもいただけましたなあ。手ごろな値段で売りにでていた牧場を、まあ身分不相応やが、エエ気晴らしになるかなあ、思うて買おうかどうか、悩んでたんですわ。そのとき、彼にどう思とるのんかを訊かれ、ハッキリとアドバイスされたのは「すぐに買うべきや、そんなもん待っとっても安ならへんがな」。当時、彼のアドバイスに従うだけの経済的な余裕はなかったんですが、私はそれからいつもわが国の指導者たる、彼の言葉を思い出して、なんか迷うようなことがあっても躊躇せえへん、と思うようにしてますのんや。

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